エメラルド仏

 

 ワット・プラケオの本堂内には、本尊としてヒスイ製の仏陀像が安置されている。この仏像が現王朝の名前にもなっているラッタナーコシン(インドラ神の宝石)だ。
 エメラルド寺院というワット・プラケオの通称は、この仏像の色にちなんで命名されているが、材質はエメラルドではなく──そう固く信じている人もいるが──中国産のヒスイを使用している。

 この仏像はタイ国のみならず、隣国ラオスにおいてさえも、もっとも重要とされている超国宝級の仏像だ。
 というのも、この仏像は16世紀中頃から18世紀後半までの200年以上の長きにわたってラオスの首都ヴィエン・チャンのワット・プラケオ──ラオス最高の寺院もワット・プラケオ──の大本尊とされていたのに、1778年に当時のトンブリー王朝国王タークシンと、のちにラーマ1世となるチャクリー将軍率いる軍勢がヴィエン・チャンに進攻してこれを強奪──とラオス人は言う──し、以後タイ国がそのまま国家の本尊として所持し続けているからだ。
 ラオス国民は現在もこの仏像の所有権を訴え続けているが、当然のことながらタイ政府は返還に応じていない。この仏像は国宝であると同時にチャクリー王朝の守護神でもあるから、譲ってしまうわけにはいかないのだ。

 仏像は、高さ0.66メートル、幅0.48メートルと大きくないが、その霊力は計り知れない。
 原材料のヒスイは中国南部地方のものらしいと分析されているが、出所は特定されておらず、製造年や製造者、その製作目的もわかっていない。紀元前43年製造説、15世紀のチェンマイ王国発見説、チェンセーン職人製造説など伝説は数々残されているが、どれも決め手に欠けるものばかりで、その過去は文字どおり神秘包まれれている。

 仏像が身につけている金色の僧衣は、現国王みずからの手で3、7、11月の3度、季節の変わり目ごとに取り替えられ、そのお召し替えの儀式は特別の国家的行事に指定されている。

 この本尊の両脇を固める高さ3メートルの黄金仏像は、ラーマ3世が先代の2国王に捧げるために造られた仏像。
 一般に、向かって右側の仏像をラーマ1世仏、左をラーマ2世仏と呼んでいる。

 

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