ジム・トンプソンの家
Jim Thompson's House

Rama 1 Rd., Soi Kasem San 2

 

 タイシルク王として名高いアメリカ人ジム・トンプソン氏がかつて住居としていた家。現在はタイの民族博物館になっている。

 この家は、チーク材を使って建てられたタイ伝統様式の古い家屋を6軒集合させて成り立っている。そのうちの1軒は、バンコクから約80q北方のアユタヤーから船に乗せられて運ばれてきたものだ。
 外装は、チークの外壁が風化や老化で痛んだりしないよう朱色のベンガラという顔料で塗装されている。
 建築にあたって釘は一切使用されていない。
 外側から見ると現代的な建築物風の印象を受けるが、館内は田舎の家らしく渋く黒っぽくくすんでいる。

 1959年の完成後、トンプソン氏はしばらくの間この家に住み、数多い友人を招待したり、パーティを開いたりしていたが、噂を聞き付けてやってくる収集品の見学希望者が多くなったため、本人は別邸に住むことになり、のちに博物館兼美術館として一般に公開しはじめた。
 展示されている美術品の数々は、たしかに人に見せてやりたくなるような逸品ぞろいだ。寺院の扉を倉庫や便所の扉に使用したりする宗教心のなさはいただけないし、考えてみればここに並べられているものの多くは古い寺院や遺跡の中から拝領してきた盗品ばかりだが、これだけのものを集めるにはタイ古美術品へのよほどの情熱がなければできないだろう。
 事実、タイの芸術局は彼の先手を行くことができず、できることと言えば彼の収集品に難癖をつけて没収するくらいだったとか。
 もし、ジム・トンプソン氏が古美術品の発掘欲をもっていなかったら、今この家に展示されている品々はすべて海外に流出していただろうとも言われている。
 明治時代の日本古美術界におけるフェノロサ、岡倉天心らと同様の役割を果たした人物と言えるだろう。

 当のトンプソン氏は、1967年、マレーシアのキャメロン・ハイランド山中で謎の失踪を遂げ、その行方はいまだにわかっていないが、彼の 「家」 の方は現在ボランティア団体によって管理され、博物館として運営されている。

 家はラーマ1世通りから路地に入って5分ほどの運河沿いに建っているが、街の中心地に位置しているとは思えないほど静かな環境の中にある。
 しかし、トンプソン氏がもし今もこの家に住んでいたとしたら、目の前を流れるセーンセーブ運河の臭さとボートの爆音に閉口しているに違いない。
 彼の愛したバンコクは、東南アジア全域を揺るがした彼の失踪事件の記憶とともに消え去っていき、あとには声のない美術品だけが残されてしまった。

 

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