ワット・ベンチャマボーピット

正式名称:ワット・ベンチャマボピットドゥシットワナーラーム

 

 もともと、ここには別の小さな寺院があったのだが、ラーマ5世が1898年にドゥシット庭園(今の旧国会議事堂のある一帯)を造成するにあたって取り壊すことになり、かわりにこの寺が建てられた。
 着工は1899年のこと。寺院名の意味は、「第5番目の国王が建立された寺」 と、そのままだ。

「大理石寺院」 という別名が示すとおり、屋根瓦を除いてほとんどすべての建材に大理石を使用している寺院。金張りの窓枠にはステンドグラスがはめ込まれている。さらに、この寺院にはタイの寺院につきものの仏塔がない。
 床、壁、柱にはイタリアのカララ市から運ばれてきた純白の高品質大理石が使われ、色の対比を考えたのか、屋根瓦も一般のものとは焼き方の違う鮮やかなオレンジ色の瓦を使用している。本堂出入口前階段に並ぶ狛犬ならぬ狛ライオンから塀に至るまでその大理石製が使用されており、一辺の妥協もない。

 設計はラーマ5世とともに同時代に幾多の近代的建築物を設計したラーマ4世の第62子ナリッサラーヌワッティウォン親王の手によるが、若干西洋かぶれとも言えるラーマ5世のアイデアを次々と現実のものとした彼のセンスはまったくすごい。
 しかし、残念なことにこの寺も、ほかの王室寺院と同様に建設工事に時間がかかり、ラーマ5世存命中に完成させることができず、後継者ラーマ6世時になってようやく完成した。

 左右対称の、十字形をした本堂内に安置されている青銅製の本尊は、タイでもっとも美しい仏像と言われる北部ピッサヌローク県のワット・マハータート本尊仏像を模したもの。深い緑色の壁を背景にして輝く姿は幻想的で美しい。
 本堂の大きさも、この本尊の外寸に合わせるように設計されており、本尊台座の中には建立者ラーマ5世の遺骨が納められている。

 本堂の背後は、52体の仏像が安置されている回廊によって囲まれているが、この広い敷地内も石畳ならぬ総大理石畳。潔癖と言っていいほどの清潔感と落ち着きがあり、まるで一面の銀世界を思わせるほど寒々しい美しさ。その透徹した冷たさは、熱帯で底冷えを感じさせるほどだ。

 寺院は境内を南北に走る小川によって本堂地区と僧坊地区に区別されている。どちらも手入れがいきとどき、整備された庭園のように美しい。

 小川を渡って左手の僧坊地区に入ると、ソンタム館、ソンパヌワット宮殿などが並んでいる。
 ソンタム館は、夭逝したラーマ5世の記念館として建てられたが、現在は王室と王族のための葬儀場として利用されている。
 ソンパヌワット宮殿は、出家されたラーマ5世が起居する僧坊として建てられた。王室の僧坊として建設されたこの宮殿は本来王宮内にあったが、ワット・ベンチャマボーピット完成と同時に境内に移転され、住職用の僧坊となった。現在は誰も住んでいない。

 

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