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ベトナム在住5年半にもなると、結構ベトナム人の友達もできる。 「来週の土日、営業のメンバーが中心になって車を借りて海に行くんだけど、いっしょに行かないか?俺以外は女ばかりなんで、男の友達を誘って来てくれ」 というようなことを、結構うまい英語で話した。 「私は次の土曜は休みだし100%O.K.だけど、ほかはとりあえずあたってみるよ」 と私はあまりうまくない英語で答えて、電話をきった。 週末はすぐに来たが、友達はだれも捕まらない。日頃女の子を紹介してくれ!と言っている奴にかぎって、肝心な時になると出張だ、来客だ、接待ゴルフだ、ということになるらしい。そんな奴等には 「アディオス!」 だ。私は荷物をバックに詰めた。 土曜日が来た。 オフィス前では紺のハイエースがエントランスに横付けされて、吹き込む雨をものともせずに荷物を運び入れている。今晩の食料、バーベキューの道具、ビール、やたらと大きいパーソナルバックなどが次々と運びこまれる。女六人と男二人が乗り込み、最後にドライバーが乗り込んで、ホークック海岸にむけて出発だ。 ベトナムで車を借りると、必ずドライバーが付いてくる。運転が乱暴だったりイヤな奴だったりして、休日をだいなしにしたこともあったが、今回はどうやらアタリのようだ。年齢もみんなに近く、フレンドリーないい奴である。 ハイエースは雨の国道1号線を東に向かってひた走る。20km程先で、51号線をブンタウ方面に右折する。更にブンタウの手前で左折するころには、雲はまだ厚いものの雨は上がり、気分はいやがうえにも盛り上がってきた。 今夜の宿は木造2階建の海辺の小屋だ。1階の大部屋を女性達が占拠し、ドライバーを含めた男三人は二階の四人部屋に入った。 ベトナムの海にはジェットスキーもウインドサーフィンもパラセールもない。透明な水、どこまでも続く白い砂浜、そこでただ泳いだり水をかけあったりするだけだ。 海からもどってシャワーを浴びた。その後夕食の準備をする女性たちを残し、私はヤンを誘ってかねてから目を付けていた廃材置き場に行った。 「ヤン、焚火用に薪を集めようぜ!」 というような会話の末、二人は大小の薪を集めて小屋の近くまで運んだ。 夕食の合図とともに小屋の脇に集まった一同の目は、次々と焼かれる肉に釘付けだ。ビールを右手に、焼き肉と生野菜のライスペーパー巻きを左手に、賑やかなパーティが始まった。 あたりが闇に包まれてきた頃、私とヤンは焚火を始めた。最初は何事かといぶかし気だった女性達も、火を見て原始に目覚めたのか次々に焚火の周りに集まって来る。私が作ったビールの空き缶利用の椅子が大ウケで、結局人数分を作ることになり、みんなで火を囲んで話がはずむ。 その時、突然周囲の闇を切り裂くようなヘッドライトと共に、見知らぬハイエースが近づいてきた。我々の近くに止まったその車からは、英語のポップミュージックがガシガシ流れて来る。他の客のドライバーが飛び入り参加を表明したのだ。「音楽持ってきたからさー、仲間に入れてくれよ」 ということらしい。もちろん大歓迎だ。 翌朝6時に起こされた。そういえば夕べだれかが言った 「あしたは早起きして温泉に行く」 というセリフが、酔った頭の片隅に引っかかっていたっけ。 30分ほどで、ビンチャウ温泉に着いた。温泉といっても小学校のプールくらいの浴槽に、水着を着けて入るのだ。私には程よい温かさなのだが、温泉なれしていないベトナム娘達は熱い熱いと大騒ぎだ。 朝風呂とは贅沢な!と思ったのも束の間、ちょっと困ったことになった。というのもこのお風呂、立てばヘソまで座れば溺れる水深なのだ。立て膝もしくは中腰の朝風呂なので、なんだか妙に落ち着かない。 浴槽の周囲は所々に湯の流れがみられる湿地帯だ。その中を遊歩道が源泉まで延びている。しばらく行くと前方に湯気モウモウの源泉が見えてきた。コンクリートで囲まれた源泉に籠にいれた玉子を沈める。ただでさえ暑いベトナムなのに、温泉地熱が加わって更に暑い。黙っていても汗が滴る。これではなんのための朝風呂だったのかわかりゃしない。 アツアツの玉子を草の葉で包んで食べる。ベトナムで食べる温泉玉子はホンのりとした硫黄臭があってまた格別である。ひとり2個ずつツルリと食べて地熱地獄から退散した。 ビンチャウ温泉は、お風呂の周りにホテルやレストラン、バンガローなどがあるレジャーランドだ。3Kmほど牛車に揺られていくと澄んだ水の流れる渓谷もある。 一泳ぎの後、浜でカニ売りのおばちゃんから買ったカニをゆでる。カニはハサミを縛られただけでまだ生きているので、鍋の中でアツイアツイと騒ぐのだが、フタをして知らんぷりだ。やがてゆであがったカニをバキバキと解体して、みそまですっかり舐めてしまった。 昼食は浜辺のレストランで軽く済ませ、後は各自おしゃべり、買い物、散歩とそれぞれの時間をすごす。私は持参のハンモックを2階の手摺に吊って寝転がる。心地好い海風に吹かれて、雲が切れ始めた空を見上げていたら、ずっとこうしていてもいいと思えてきた。 いつのまにか眠っていた私は、左腕にあたる直射日光に起こされた。みんなが後片付けを始めている。もう帰る時間なのだ。 |