日本で食べる野生動物の大半は、だいたいがウサギ程度のもの。
たまに栃木の山奥の村で、
「熊を撃ったから、鍋でも食っていきな」
と、ご相伴に預かったり、
北海道は知床あたりで、
「トドの味噌ラーメンでも食うかね」
なんて言われることはあるけれど、ベトナムに比べたら、そんな話は小さなものだ。
たとえば、ベトナム戦争が華やかりしころ、金がなくなったサイゴン動物園の園長は、園内に飼われていた象を個人的にさばき、勝手に肉を売り払ってしまった。
日本だったら、
「そんな残酷な……」
となるところだが、さすがはベトナム。市民の反感を買うどころか、販売開始と同時に売り切れてしまったんだとか。
それを買って食べたという友人は、
「あまり旨くなかった」
と言うばかりで、あまり多くを語ってくれないのだが、とにかく 「食べてしまう」 のだから恐れ入る。動物園の象さんの肉をだよ?
この逸話からもわかるように、(一部の)ベトナム人は、動物の肉が大好きだ。牛が安いので朝からビーフステーキを食ってたりするが、熊や鹿の肉なんてかわいいもので、小猿にアルマジロにハリネズミにと、生き物ならなんだって食べてしまう。
ゲテモノなんて思うかもしれないが、それは食べたことのない人が言うセリフ。ハリネズミの肉なんて、食べちゃいけないって言うほうに無理があるほどうまいんだから。
しかし、そんな野趣たっぷりの料理を楽しめるのも今が最後のチャンスだろう。というのも、動物愛護でもないだろうが、ベトナム政府は唐突に 「野生動物食べちゃだめ法」 を施行して、ほぼ全面的にこの手の肉食を禁止してしまったからだ。
おかげで、以前はサイゴン市内の運河わきで堂々と営業していた動物市場もなくなってしまい、跡地前の路上では檻に入れられたトカゲの類や小猿、犬などが細々と売られているだけ。
それでも十分だって?
いやいや、ベトナム人たちはそう思っていない。それより、
「今度象を食べるチャンスがあったら絶対に声をかけてくれ」
と言った私はどうなるんだ?
しかし、心配は無用。ここはベトナム。抜け道なんて、いくつもあるのだ。
抜け道その1
野生動物レストランに行く
禁止されたとはいうものの、サイゴン市内には野生動物料理を売り物にしているレストランがまだいくつか残っている。
それだったら禁止したことにならないじゃないか……なんて言う人はベトナムという国を理解していない。この国は今も社会主義。ということは、なんだってアリということなのだ。
そこで出される肉が本当に野生のものか養殖ものかは知る由もないが、とにかく鹿、アロマジロ、コウモリなどは食べられる(注1)。
かぎりなく養殖に近いと思われるヘビ、トカゲ、イノシシ程度なら大衆酒場でお目にかかれることもあるから、こんな店では珍しくもなんともない(注2)。
また、ベトナムでは合法だが日本では違法という点ならカブトガニなんかもおすすめだ。路上屋台にときどき並んでいるので、街を歩くときは歩道の隅までしっかり見よう(注3)。
抜け道その2
自分で料理する
前述の動物市場跡地前や、チョロン(中華街)で好みのものを探してこよう。とはいっても大型獣はめったに手に入らず、普通はヘビ、トカゲ、犬、猫、スローロリスなどが売られているのみ。私は一度、山猫の子供を見たことがあるが、子供でも普通の猫の倍ほど大きかった。
ここでのおすすめはスローロリスだろう。
ベトナムでは(日本でも)ペットとして売られているようだが、クメール人(カンボジア人)はこれが大好きで、隣のカンボジアでは絶滅寸前という噂があるほど。
これも飢えてしかたなく食べているわけではなく、実は味に定評のある動物なのだ。愛らしい動物なんだけどねえ……。
抜け道その3
ジャングルに出向く
ベトナムの山岳地帯やジャングル地帯をドライブしていると、「森の肉」 などと書かれた手書きの小さな看板を見かける。この看板を見かけたら、どんなに急いでいても、とにかく寄ってみることだ。
そこは小さな雑貨屋風になっていて、庭先には粗末な掘っ建て小屋があり、隅では看板に恥じることない野生動物の肉が売られている。
小屋は食堂にもなっており、注文すれば料理もしてくれる。仕入れが安定していないので、食材のすべてが売り切れということもあるが、運がよければ見たこともない動物の肉が味わえるだろう。
一度、小屋の横の檻でハリネズミ(ヤマアラシ?)を見つけた。人懐っこいヤツで、手を出すと擦り寄ってくるし、喉をなでると猫のように喜ぶ。その時はたらふくイノシシを詰め込んだ後だったので食べなかったが、ハリネズミの肉は鶏肉のように柔らかく、しかもジューシーでかなりの美味。
隣の檻にはボールで遊ぶ、かわいい小熊なんかもいたけれど、こいつらもみんな食われてしまうんだろうなあ。
スローロリスと同様に、うまさの前ではかわいさも意味がない。
人間って残酷だ。
抜け道その4
森林警備隊と仲良くなる
正式名称は知らないが、ベトナムの森林には政府の管理者が住み込みで働いている。もちろん近くには食堂も雑貨屋もないので、彼らはなかば自給自足の生活をしている。
そんな連中と仲良くなると、思わぬ動物が食べられるのだ。
たとえば、私の友人が山で道に迷ったときに出会った森林警備隊員は、道を教えてくれたうえ、親切にも食事に誘ってくれた。裏の畑から胡椒と唐辛子を取ってきて、煮込んだ肉と一緒に出してくれたそうだ。肉は小さく、骨も多くて食べにくかったが、味は悪くなかった。
食べ終わって、お茶を飲みながら 「なんの肉か」 と訊ねると、そのへんにいる動物で、小さいシカの一種だと言う。どうやらジャコウ鹿というヤツではないかと友人は推測しているが、いずれにしても、街で簡単に食べられる動物ではない。
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さて、こんな感じで思いつくままに抜け道を紹介したけれど、闇から闇肉を手にする方法は、ほかにももっとあるだろう。
とはいえ禁制品は禁制品。あまりおおっぴらに探していると、ほら、あなたの後ろを歩いている太ったおやじ、彼は秘密警察かもしれませんよ。そして気がつけば、今度はあなたが肉になっているかも……なんて、これはウソですけど。
ジャアク商会 藤井伸二の補足解説
注1:鹿肉は柔らかく、脂肪も少なくて美味。
アルマジロ(センザンコウかな?)は硬くてちょっと臭みがある。
コウモリは肉が少なくてつまらない。
注2:ヘビ肉は淡白な味。
トカゲは生で食べることもあるが、寄生虫がいるので火を通したほうが安全。
注3:カブトガニならタイでも食べられる。ただし肉を食べるのではなく、腹に抱えている卵を食べる。
プチプチっとした食感がナイスな一品。ちょっと薬くさい香りがいいのかも。 |