タイの仏教と宗教概説2

日本とは違う仏教
(上座部仏教、テラワーダ仏教)

 

 タイも日本と同じ仏教国ということで、親近感をもつ人も多いだろうが、実は両者は仏教でも、基本的には異なっている。

 仏教は、紀元前588年の12月8日、釈迦族出身のシッタールダ王子が苦行の末に悟りを開き、仏陀となった日から始まった。仏陀はそれ以後の生涯を布教と啓蒙活動に捧げ、地方を旅して教義を説き、80歳で入滅された。
 仏陀の教えはその後、バラモン教全盛のインドでじわじわと信者を延ばし続けていく。しかし、入滅から100年後、戒律と修行だけでは人々を救えないと判断した仏教大衆派の運動が起こり、仏教教団は保守正統派と改革進歩派の2派に分裂してしまった。
 この改革進歩派がチベットから中国を経て日本に伝来した大乗仏教(北伝仏教)である。大衆の救済という大いなる理想を掲げたこの改革進歩派は自らを 「すぐれた乗り物(大乗/マハーヤーナ)」 と名乗り、その懐の深さを強調した。

 もう一方の保守正統派は、あくまでも仏陀本来の教えにこだわり、厳しい修行と禁欲によって選りすぐられた者だけに救済の道が開かれることから 「上座部仏教」 と呼ばれるようになった。
 これがアショカ王の時代にインド全土に普及し、セイロン(現スリランカ)にて教義編纂され、ミャンマーを経てタイに伝来した仏教だ(南伝仏教/ヒーナヤーナ)。
 タイの仏教徒は、一部の華僑系仏教徒を除き、そのほとんどがこの上座部派に属している。教義教典はサンスクリット語(梵語)の一種であるパーリ語で記された三蔵経だ。

 タイでも、かなり以前には大乗仏教が信仰されており、上座部仏教の伝来は4世紀頃始まったセイロン国との交易がきっかけになっているという。
 伝来当時は国家規模が小さかったことと、精霊信仰が一般的であったために伝播した範囲がかぎられていたが、13世紀に栄えたスコータイ王朝が現在のタイ国と同等の国土を平定したと同時に全国へ普及したようだ。
 中国の歴史書やスコータイ王国のラームカムヘン王碑文には、13世紀末にはすでに広範囲にわたって上座部仏教が浸透していた事実が記されている。

 この一派は、俗に 「小乗仏教」 と呼ばれているが、これは 「(大乗に対して)劣っている乗り物」 という意味で使われる大乗側からの一方的な蔑称である。つまり、ひとりしか乗ることができないという意味で、その狭量さを軽蔑しているのだ。

 1950年の世界仏教徒会議でこの名称の正式撤廃が決議されたが、調べていくとこの 「ひとり乗り」 という言い方が、意外と上座部仏教の本質を表している。

 上座部仏教徒の最終目標は、仏陀(個人名ではなく、悟りを得て涅槃に入った人を指す)の域に達することである。
 そして、人間を苦しめる艱難辛苦から切り離され平穏の世界に至るためには厳しい修行と禁欲で苦悩の根源となっている煩悩や欲望を捨て去る努力となっている。
 すなわち、すべての信徒はゴータマ・シッタールダの歩んだ道程を行くべきであり、その実践のため、タイ仏教には227条の戒律が用意されている。
 これは日常生活全般にわたる広範なもので、中でも、

@性交、A窃盗、B殺生、C悟りを得たと嘘をつくこと

 の四戒は、絶対に犯すべからざるものとされている。
 あとの戒律はこれら四戒の拡大解釈のようなものだが、一般の仏教徒(出家していないもの)は、これに

D禁酒

 を加えた五戒を守るべくよう義務づけられている。

 これだけでも俗人にはむずかしいが、僧侶はすべての戒律を順守しなければならない。
 このため、真の上座部仏教徒(出家中の者)は婚姻することが許されず、僧侶の姦通の事実には宗教裁判の断罪をもって償わされる。日本のアニメ 「一休さん」 はタイでも人気だが、オープニングタイトルにあるように、幼い少女が僧侶にキスするなど、あってはならないことなのだ(しかし、タイではこの場面はカットされていない)。
 上座部仏教には出家者だけで構成されるサンガと呼ばれる教団組織があり、戒律に違反した僧はこのサンガを追われる。これは実質的に仏教界からの追放を意味している。戒律は絶対であり、守れない者は涅槃に至る道を断たれるのだ。

 このように厳格な戒律を守り通し、厳しい修行を経たものだけに救いのあるのが上座部仏教であり、黙っていても誰かが救ってくれる大乗仏教とは大きな違いがある。
 簡単に 「同じ仏教で」 とは言い切れない深さがそこにあるのだ。

 

旅行者が守るべき宗教上の注意については、

タイでの旅行トラブル集27
社会的マナーと常識を学ぶ

 をご参照ください。

 

 

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